個人開発アプリの収益設計で、いちばん効いたのは価格でも広告ネットワークの選定でもありませんでした。

無料枠を1日2話から1日1話に変えたことです。

寝かしつけ用のAI絵本アプリ(Nemuru)の話です。数字と、その判断に至った理由を書きます。

確定した数字

  • 月額 ¥300 / 年額 ¥2,000 / 無料トライアル 7日間
  • 無料は 1日1話リワード広告を見ると当日もう1話(1日最大2話)
  • バナー広告は入力画面と履歴画面のみ

価格は、同じ時期に出した他の2本(日記アプリ¥480、行列予測アプリ¥400)より意図的に安くしています。「初期はとにかく安く、まず多くの人に試してもらう」という方針を優先しました。

試算したら、サブスクが主役ではなかった

月間の収益見込みを積んだとき、内訳がこうなりました。

バナー広告      ¥600 〜 800
リワード広告   ¥2,700 〜 4,500
──────────────────────────
広告 合計      ¥3,300 〜 5,300

サブスク       ¥300 × 転換率2%  =  ¥1,200

この規模では、広告収入がサブスク収入を明確に上回ります。

意外でした。個人開発の収益化というと、まずサブスクを設計して、広告は「無料ユーザーからのおまけ」という位置づけで考えがちです。少なくとも自分はそう考えていました。

数字を並べて分かったのは、転換率2%という現実の前では、98%のユーザーから1円も取らない設計のほうが不自然だということでした。

リワード広告は「見たくなる理由」がないと機能しない

ただし、上の試算はリワード広告が実際に見られる前提です。ここが設計の全てでした。

課金担当の当初案は**「無料は1日2話」**でした。これを1日1話に上書きしました。理由はひとつです。

1日2話も無料でもらえると、「もう1話ほしい」がほぼ発生しません。

寝かしつけの絵本を、1晩に3話も4話も読む家庭は多くありません。2話あれば足りてしまう。足りてしまうと、リワード広告を見る動機がゼロになります。広告枠を用意しても、誰も見ないので収益は生まれない。

1話に絞ると、いちばん自然な動線が生まれます。

「生成された話が今日の気分に合わない」→「広告を見て、もう1話つくる」

この動線が成立するかどうかが、月¥3,000弱の差になります。

「1話はきつすぎて離脱するのでは」という懸念は当然あって、実際に議論になりました。結論としては、広告を見れば即座に+1話が手に入るので、行き止まりではないという判断です。壁ではなく、有料の扉と、無料の扉が並んでいる状態にする。

収益の要は、たった1つのUIにある

実装で絶対に外せないのはここです。

無料ユーザーが1話を消化した直後に、必ず2択を出す。

①「広告を見て、もう1話つくる」
②「プレミアムにする」

ペイウォールは2段階にしました。

タイミング種類中身
1話を消化した直後ソフト上の2択。広告という逃げ道がある
当日2話とも消化後ハード課金導線のみ

ソフトの段階で②を選ぶ人がいる、というのが重要です。①を提示することでサブスクが減るのではなく、「今日はもう作れない」という事実を突きつける場所として2択が機能します。選択肢を出さずに黙って止めると、ユーザーは何も選ばずにアプリを閉じます。

広告を出さないと決めた場所

原則を1つ、絶対に動かさないものとして置きました。

読み聞かせの最中には、絶対に広告を出さない。

就寝前に子どもへ読み聞かせているアプリです。ここに広告を差し込めば、収益は上がるでしょう。そして二度と使われません。

バナーは入力画面と履歴画面のみ。プレミアムユーザーには両方とも非表示。この線引きは、収益試算より優先しました。体験を壊す広告は、短期の収益と引き換えに、そのアプリの寿命を売っています。

Product IDに価格を入れなかったのが、3日後に効いた

地味ですが、これは書いておく価値があります。

課金担当がProduct IDをこう命名していました。

premium_monthly
premium_yearly

premium_380 のような、価格を含む名前にしていません。そしてこの直後、価格を¥380から¥300に変えました。

Product IDはストアに登録したあと変更できません。価格を名前に入れていたら、商品を作り直すか、名前と実態が食い違ったまま運用するかの二択でした。変更コストがゼロで済みました。

同じ理由で、値上げするときは既存ユーザーを旧価格で据え置く運用にしています。IDが価格から独立していれば、これも素直にできます。

Play Consoleの罠: 無料トライアルは基本プランの中に無い

最後に実務の話です。無料トライアルの設定場所で必ず迷います。

基本プラン(Base plan)の設定画面にはありません。「特典(Offers)」タブです。

premium_monthly を開く
  → 基本プランの行の「特典を追加」
  → 特典IDを決める
  → 無料試用期間 7日間
  → 有効化    ← ここまでやらないと有効にならない

基本プランの画面で探し続けて時間を溶かしました。手順書に明記して、他のアプリでは踏まないようにしています。

なお、この無料トライアルはコンテストの審査員が有料機能を試すための導線としても使えます。プロモコードを別途発行しなくても、トライアルがあれば審査員はプレミアムを触れる。副次的な効用ですが、提出要件をひとつ満たしました。

まとめ

  • 個人開発の規模では、リワード広告がサブスクを上回りうる
  • ただしそれは無料枠を絞って、広告を見る動機を作った場合だけ
  • 収益の要は広告の単価ではなく、無料枠を使い切った瞬間に出す2択UI
  • 体験の核(このアプリなら読み聞かせ中)には広告を置かない
  • Product IDに価格を入れない。値付けは必ず変わる

数字が出たら、この試算がどれだけ外れていたかも含めて公開します。


コスト側は既に全部出しています(アプリ3本で請求22円有料アカウント化しても総費用0円だった話)。課金の実装で11日間壊れていた話はこちらです。